僕の好きな沖縄音楽


 言うまでもなく、音楽の好みは人それぞれである。同じ人間でも年齢によって好みは変化してくる。最近の僕は、沖縄音楽に限らず声の美しい女性ヴォーカル曲を中心に聴いている。従って、これから紹介する沖縄音楽も女性ヴォーカル偏重になるが、そのへんは勘弁していただきたい。

名曲10選

○耳切坊主(ミミチリボウジ)−「大村御殿(ウフムラウドゥン)」とも呼ばれる。僕が最初に感動した沖縄音楽である。何に感動したかというと、脱力感に満ちたそのメロディーと歌声にであった。声の主は人間国宝・照喜名朝一と金城武信。この二人が無伴奏で歌っている。彼らの全くやる気を感じさせない歌声は名人芸と言う他ない。他の歌手ではこの味は出ない。仕事に行きたくないなあ、と思う朝、この歌を聴くと、休む決断がつくのである。しかし、歌詞は、大村御殿の角に立っている幽霊の坊主達が泣いている子供の耳を切るよ、だから泣くなよ、という子守唄にしては結構怖い内容である。(オムニバスミュージックテープ「決定版/ふるさとの民謡沖縄編」所収。今は手に入らないかもしれない。CD化もされていないようだ。)



○ファムレウタ−八重山方言で「ファ」は「子」、「ムレ」は「守」、つまり「子守歌」という意味だが、曲調も歌詞も子供を寝かしつけるような歌ではない。サビの部分はエキサイティングでさえある。オリジナルの新良幸人の歌も捨てがたいが、夏川りみがこの歌の特質をよく生かしているように思う。(夏川りみCD「てぃだ」所収)




○てぃんさぐぬ花−「てぃんさぐぬ花」とはホウセンカのlこと。ちなみに「てぃんさぐ」の語源は、鹿児島方言の「トビシャゴ」「トッサゴ」等と同根と考えられるので、「飛瓢(トビヒサゴ=『弾け飛ぶ果実』の意)」であろう。この曲は多分、沖縄民謡の中で最もレコーディングされている曲である。僕の手元にあるだけでも80種ほどある。歌詞は説教臭い教訓歌だが、メロディーの美しさがそれを補って余りある。なかなか僕のイメージにぴったりくる歌がなかったが、中国人歌手en-Ray(エンレイ)の歌がCDショップで流れているのをたまたま聴いて、これだ、と思った。夏川りみをさらにしなやかにしたような声質で、沖縄口も違和感なく歌っている。(en-RayCD「ぱらいそ・に」所収)




○安里屋ユンタ−沖縄民謡の中でこれほど手垢にまみれた曲は他にあるまい。もともとは竹富島の民謡だが、宮良長包作曲、星克作詞の大和口歌詞で世に広まった。かつてはこの大和口の方は「新安里屋ユンタ」と呼ばれて元歌とは区別されていたが、大和口歌詞が広まるにつれて「新」の文字が消えていった。僕は長らく、この大和口の歌詞は最低である、大工哲弘が八重山口で歌うのが良い、と思っていたのだが、最近考えが変わった。Hazukish Eyesが大和口で歌ったものが、シャープな歌声とアレンジで手垢にまみれた曲を見事に甦らせていたのである。(オムニバスCD「カジヌユンタク」所収)




○芭蕉布−普久原恒勇作の名曲だが、手垢にまみれたという点ではこの曲も安里屋ユンタに劣らない。穏やかな曲調を穏やかに歌う歌手が多く、ぼんやりした印象になってしまうことが多い。そんな中で、普天間かおりがパワフルな歌唱と独特なアクセントのある歌い方で新しい命を吹き込んだ。スタンダードな歌い方では伊波智恵子が良い。(普天間かおりCD「真南風」「ゆがふ」所収)




○涙そうそう−元々はビギンの歌だったが、夏川りみの歌唱で世に知られた。切々とした歌詞に、夏川りみの声がはまったということなのだろう。CDには沖縄口に訳したものも入っていて、これがすこぶる良い。「会いぶさぬ思いや増さてぃ涙そうそう(逢いたさの思いが募って涙が溢れる)」など、大和口では出せない味わい。シンプルな編曲と沖縄口が切々感を増幅させている。別の沖縄口の訳詞でよなは徹も歌っている。聴き比べてみるのも面白いと思う。(夏川りみCD「南風」所収)

○童神−名曲である。すでに何人もの歌手がレコーディングしている。「夏の節来りば涼風ゆ送てぃ、冬の節来りば懐に抱ちょてぃ(夏が来れば涼風を送り、冬が来れば懐に抱いて)」なんて歌詞には感じ入ってしまう。古謝美佐子の母性を感じさせる歌も良いが、やはり夏川りみの丁寧な歌い方が歌詞によく合っている。(夏川りみCD「南風」所収)

○なー−りんけんバンドの曲の中で上原知子のヴォーカルをメインにした曲には美しいものが多い。その中から一曲選ぶとすれば、「なー」である。「なー」とは「あなた」という意味で、この「なー」だけで最後まで歌い通す。余分な言葉がない分、思いの強さが伝わってくる歌である。(りんけんバンドCD「チェレン」所収)




○月ぬ美(かい)しゃ−数ある沖縄民謡のうちでも、僕が最も美しいと思う曲である。メロディーの美しさもさることながら、歌詞がまた良い。「月ぬ美しゃ十日三日、女童美しゃ十七つ(月が美しいのは十三夜、乙女が美しいのは十七歳)」。「東から上りおる大月ぬ夜、沖縄八重山照らしょうり(東から上がるお月様、沖縄も八重山も照らして下さい)」。これなど李白の「静夜思」を連想させる歌詞ではないか。歌は新良幸人の朗々たる歌いっぷりが良い。「新良幸人パーシャクラブ」盤は声に勢いがあるが、アレンジが少々騒々しい。三線だけの「月虹」盤は、浜辺で一人、月を眺めながら歌っている雰囲気がよく出ている。(新良幸人CD「月虹」所収)



○花−最近の曲の中では最もレコーディングされている曲だろう。何しろ、この曲だけを集めたCDが国内編、国際編と2枚も出ている。好き嫌いで言えば、喜納昌吉の曲の中では「東崎」の方が好きなのであるが、「花」を無視するわけにもいくまい。歌はやはり石嶺聡子か。伸びやかな歌声はサビの部分を最も良く生かしているように思う。(石嶺聡子CD「INNOCENT」所収)





名盤10選

○「南風」(夏川りみ)−大ヒットの「涙そうそう」を含む7曲のミニアルバムである。7曲だけだがどの曲もレベルが高く、「童神」や「イラヨイ月夜浜」などはオリジナルをしのぐ出来栄えである。名曲10選でも紹介したとおり沖縄口の「涙そうそう」は絶品。夏川りみが歌いたい曲だけを心を込めて歌った、という気持ちが伝わってくるようなCDである。




○「ゆがふ」(普天間かおり)−普天間かおりはポップス系の歌も歌っているが、「ゆがふ」は島唄の新旧スタンダードを集めたCD。名曲10選で紹介した「芭蕉布」はもともと「真南風」というミニアルバムに収録されていたが、この「ゆがふ」にも入っている。その他「ちょんちょんキジムナー」、「べーべーぬ草かいが」などが良い。




○「山里ゆき子特集」(山里ユキ)−タイトルは「ゆき子」となっているが、今は「ユキ」で活躍している。今や大城美佐子と並んで女性唄者の大御所的存在である。大城美佐子が行書的だとすれば、山里ゆきは楷書的な歌い方をする。と言っても、型にはまったとか、硬いとかいうのではなくて、一点一画揺るぎのない安定感があり、歌の上手さは群を抜いている。「遊び仲風」や「はじうすい坂」など、上手さを通り越して幽玄の域に達しているほどである。



○「おもろうた」(伊波智恵子with栗コーダーカルテット )−伊波智恵子はフォー・シスターズの末妹。割とシャープな声質が多い沖縄女性唄者の中では柔らかい声質で、それがタイトル曲「おもろうた」のゆったりした曲調によく合っている。一方、「雨たぼり」や「太陽がなし」などの祭祀的曲調のものでは巫女を感じさせる歌い方で面白い。全曲普久原恒勇の作曲。




○「うたばうたゆん」(朝崎郁恵)−朝崎郁恵は奄美出身の唄者。彼女の歌声に驚愕したのは、「海美(アマミ)」という3曲入りのミニアルバムを聴いたときだった。大地から滲み出てくるような原初的な歌声は、一聴しただけで心をわしづかみにする力強さがある。この歌声に高橋全のピアノのアレンジが絶妙にマッチしている。奄美民謡とピアノがこれほど合うというのも驚きであった。「海美」は現在廃盤になっているが、「うたばうたゆん」は「海美」の3曲を含んだフルアルバム。どの曲が、というのではなく、とにかくこの声を聴いて欲しい。


○「miss you amami」(RIKKI)−RIKKIこと中野律紀は16歳で民謡日本一になった奄美の実力者。その後ポップス系のCDも出すも、あまりぱっとしなかった。元ちとせの先駆けのような存在だったが、土俗的な声質の元ちとせに比べて、何でも歌えてしまうクリアーな声質が、かえって焦点の定まらないアルバム作りになってしまったようだ。その中野律紀がRIKKIと改名して島唄回帰を始めたのがこのCD。彼女の声質が存分に生かされる曲が集められている。特に「東崎」は名唱。



○「IKAWU」(ネーネーズ)−ネーネーズの一枚を挙げるとすれば、やはりこのデビュー盤だろう。民謡を女性グループがユニゾンで歌うということは、それまでもないではなかったが、徹底したのがネーネーズなのである。ソロだとかなり声質の違う4人をまとめた知名定男の手腕も大きい。タイトル曲の「IKAWU」を中心に対称的なアルバム作りも凝っている。最初と最後の2曲は「月ぬ美しゃ」「七月エイサー」で聴く者の耳を引きつける。間は「テーゲー」や「タボラレ」などの楽しい歌で埋める。真ん中の「IKAWU」はじっくり聴かせる。並々ならぬ意気込みを感じさせるCDである。


○「美童しまうた」(神谷千尋)−民謡一家の神谷ファミリーに生まれ、有名な民謡歌手の神谷幸一を叔父に持つ。その血筋と言うべきか、二十歳そこそこですでに大家の風格が漂っている。曲は新たに作られたものばかりだが、全体のレベルは高い。「さがり花」、「里ゆらり」は佳曲。




○「風のションカネー」(内里美香)−神谷千尋と並んで若手有望株と称されているのが内里美香である。大東島出身。それ故か、高音の出し方が本島の歌手と少し違うようで、どこか大陸的・大洋的な茫洋さを感じさせる。CDの曲は玉石混淆といった感じだが、玉の方が多い。タイトル曲の「風のションカネー」、ネーネーズの歌で知られる「行かうー」など、ゆったりした曲で彼女の本領が発揮されるようだ。



○「甦る沖縄の歌ごえ宮古・八重山諸島編」−LP16枚組の「沖縄音楽総覧」を再編集して「宮廷音楽・沖縄本島編」と合わせてCD4枚にまとめたもの。「本島編」の方は今でも聴ける曲が多いが、こちらの「宮古・八重山編」は祭祀音楽が多く含まれ、このCDでしか聴けない曲が多数ある。昭和39年の収録だから音は良くないが、宮古・八重山の音楽の多様さ、豊かさを実感できるCDである。




□付記1−名曲10曲、名盤10組と限定したのは、きりがなくなるからである。ちょっと思いつくだけでも、今や甲子園でお馴染みの「ハイサイおじさん」、県産ではないが沖縄の歌として認知されている「さとうきび畑」「島唄」、不動のエイサー曲になった日出克の「ミルクムナリ」、最近は島唄にシフトしているビギンのスタンダード「島人(シマンチュ)の宝」「イラヨイ月夜浜」、沖縄の人気者前川守賢の名曲「かなさんどー」、沖縄音楽の父、宮良長包の傑作「なんた浜」。民謡に目を向ければ、宮古島の愛すべき子守歌「ばんがむり」、八重山民謡の最高峰「トゥバラーマ」、カチャーシーの定番「唐船(トウシン)ドーイ」、労働歌の白眉「国頭(クンジャン)サバクイ」、わらべ歌の名曲「赤田首里殿内(アカタスンドゥンチ)」「じんじん」。本当にきりがない。若手も目が離せない。唄三線の実力もさることながら、各種プロデュースも手がける才人よなは徹、沖縄のテレビCMで多用される女声ヴォーカルji ma ma、西表島船浮出身で丁寧な歌い方が好感の持てる池田卓、同じく西表島の美声の歌姫那良伊千鳥、石垣島の4人グループで仲田かおりのヴォーカルが冴える彩風(アヤカジ)、やはり石垣島出身の女性デュオで二人の声質の違いが面白いやなわらばー、宮古島からは宮古口にこだわる元気者の下地勇、奄美出身ではRIKKIや元ちとせにも劣らない美声の持ち主里アンナ、エースコックのCMに使われてその美声を世間に知らしめた沖永良部島出身の大山百合香など、今後の活躍が注目される。ポップス界での沖縄勢の活躍は説明の要もあるまい。その素地になっているインディーズはCDショップで一つの棚を形成するほどの量がある。こういうリストを作っても、すぐ色あせてしまうだろうなと思わせる勢いが沖縄の音楽界にはある。

□付記2−最後に女性ヴォーカル限定で僕が個人的に作ったCDを紹介しておこう。(2007/2/22改盤)

 1、ファムレウタ(夏川りみ)
 2、咲きゆりぃて(彩風)
 3、童神(夏川りみ)
 4、なー(りんけんバンド)
 5、行かうー(内里美香)
 6、赤田首里殿内(夏川りみ)
 7、東崎(RIKKI)
 8、てぃんさぐの花(en-Ray)
 9、さがり花(神谷千尋)
 10、安里屋ユンタ(Hazukish Eyes)
 11、風のションカネー(内里美香)
 12、イラヨイ月夜浜(夏川りみ)
 13、芭蕉布(普天間かおり)
 14、里ゆらり(神谷千尋)
 15、花(石嶺聡子)
 16、月ぬ美しゃ(ネーネーズ)
 17、おもろうた(伊波智恵子)
 18、涙そうそう(夏川りみ)